2024/06/29 16:27

糞虫の飼育・繁殖に挑戦!


Diggers & Rollersでは、糞虫の機能美や力強さについて標本以外の角度から迫るべく、飼育と繁殖を通しより深く彼らの生活史を知ることを活動の一環としています。本記事では、フィールドでの観察から飼育・繁殖に至るまでについて所感を交えて取り扱います。
(※当記事の内容は、”糞虫を知る”試みを通して得られた所感を中心に記載しています。もちろんここでの記述が飼育・繁殖の手掛かりとなれば幸いですが、あくまで所感であり普遍的な事実や最適解を求めるものではないことをあらかじめご理解いただけますと幸いです)

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目次
・シナノエンマコガネ(Onthophagus bivertex)の飼育・繁殖について
・スズキコエンマコガネ(Caccobius suzukii)の飼育・繁殖について
・ダイコクコガネ(Copris ochus)の飼育・繁殖について
・ツノコガネ(Liatongus mimutus)の羽化について
・ハバビロガムシ(Sphaeridium)の飼育について
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・シナノエンマコガネ(Onthophagus bivertex)の飼育・繁殖について

飼育難易度:★☆☆
繁殖難易度:★★☆
 -生息環境について
 牧草地などのオープンランドを好んで生息しており、生息地では4月下旬〜5月初頭から活動が確認できます。昼行性で、天気のいい日は午前8時〜10時頃をピークに新鮮な糞を求めて盛んに飛翔します。目当ての糞にあり付いた個体は糞中、地中に潜り込むため、正午過ぎ頃には飛び回る個体が激減します。雨が降った後では糞中から溺死した個体が大量に見つかることがあります。

↑飛び立つシナノエンマコガネ。糞虫の仲間はフ節が目立たないが草を器用に登ることができるようだ。

 -飼育環境について
 繁殖を前提に、地中10cm程度まで坑道を掘ることを考慮して、飼育容器には高さ15cm程の1000mlボトル(菌糸ビンなどに使用されているようなもの)を使用しています。床材には黒土単体または黒土と川砂を混ぜたものを使用し、容器の70%程まで硬く敷き詰めます。1容器につき3〜4ペアを同居させています。給餌について、初回セット時は大さじ4杯ほど、以降は大さじ2〜3杯ほどの糞を週1回の頻度で与えています。繁殖を前提としない場合は、より小さな容器や少ない給餌量、高い個体密度でも容易に飼育可能です。

↑ボトルはコバエシートで蓋をする。ちょっと石油王みたい(謎。一時的なストックであればプリンカップなどでも可能。

 -繁殖について
 飼育下では6月上旬以降から本格的な坑道の作成、繁殖行動が確認できるようになります。坑道の末端には地表から持ち運んだ糞が溜められ糞球を形成し、メスはそこに卵を産みます。透明なケースであれば壁際に作られた坑道および糞球を確認することが可能です(さらに運が良ければ糞球内の様子が見えることもあります。土繭を作るタイプのカブクワ、ブンブンと似たイメージ…サイズが小さいので見にくいですが)。産卵から羽化までは約1ヶ月半から2ヶ月ほどで、6月に産み付けられた卵は7月上旬から幼虫→蛹を経て7月下旬にかけて羽化し新成虫が登場し始めます。

↑坑道。最深部に糞を運んでいる。一本の坑道に対し、奥から順に複数個の糞球を作る。

↑シナノエンマの蛹。羽化が近ければ割り出してしまっても問題なく数日で羽化する。

 -所感
 フィールドでの観察について、活発に活動する個体を観察するためには天候のコンディションが重要になります(…と言っても希少種ではないので生息地に行けばコンディションに関わらず普通に見ることは可能です)。新鮮な糞の主人であるシカが前夜にオープンランドに降りてくることを考慮すると、当日はもちろん前日も晴れであることが好ましいと思います。移動は素早く、すぐに地中に潜られてしまうため、糞塊ごと掬い上げステンレスバットなどの上に隔離すると観察が容易になります。

↑バットに乗せた後は竹串などで糞をほじると楽。

 エンマコガネの飼育と繁殖について、床材、給餌量と飼育密度、光環境が肝だと思っています(シナノエンマはここにシーズンがここに加わる、スズキコエンマはここから特に工夫しなくても成功する…といった感じの差異)。
 床材はこれまで黒土単体、黒土と川砂の混合、川砂単体でそれぞれ数ケース用意して繁殖実績を比べてきました。「エンマコガネは砂地を好む」と言うことで期待していた川砂単体について観察が容易な一方で、餌の糞が乾燥しやすい、坑道が崩れやすく潜れないなどのデメリットが目立ち実績はあまり振るいませんでした(もちろん、これは使用した川砂の状態にもよると思います。より目の粗いものや湿度の高いものを使用した場合は結果が異なるかも)。黒土単体、黒土と川砂の混合の実績はあまり変わりませんでした。黒土の使用は水捌けなどが心配でしたが、繁殖シーズンに入ればどちらもよく坑道を掘り糞球を作成していました。意外なデメリットとして、水分を多く含んだ黒土は硬く敷き詰めすぎると坑道を掘れずに立ち往生する場合が確認できました。したがって床材について、敷き詰めた後にペンなどを挿して、軽い力でも刺さること、引き抜いた後に穴が崩れて埋まらないことに注意して配合や水分量を調整するのが良いかと思います。開けた穴の上に給餌すると、穴を起点に坑道を広げてくれる場合もあります。

↑黒土と川砂を混ぜる。この時、握って固まらない程度に加水する。ビニール手袋は手指から床材に雑菌が移らないようにするため。糞虫の飼育環境は清潔さが重要。

 給餌量と個体密度について、(これは糞虫全般に言えることですが)カブトムシなどとは異なり成虫の食料=幼虫の食料であるため、繁殖にはいかに多くの糞を糞球にまわしてもらえるかが重要になります。成虫がその小さな体躯からは想像がつかないほどの大食漢であること、そもそも糞自体が牛や鹿など他の生物が消化した後の残滓であり栄養に乏しいこと、状態の良い糞の期間は短く供給量に対して可食部の割合が少ないことなどが障害となります。特に飼育下においての最大のボトルネックは、可食部の少なさだと思っています。糞の粒子や繊維に対し体長が小さいこともあってか、エンマコガネの仲間は給餌した分を綺麗に食べきることはできず食い散らかすため、乾いた大量の残渣が残ります。これはフィールドでも同様で、到達する前にカリカリに乾いてしまった糞、ひと齧りしただけでどういうわけか放置されている糞、かつてそこで大宴会が開かれていたであろう糞塊の残渣などがよく見られます。糞虫が本当に優秀な掃除屋なのか少々疑問になるほどです(もちろん、可食部=湿潤でニオイが強く不快なハエなどが湧く原因となる部分を積極的に消費しており、残された部分は他の生き物も利用しにくいものではありますが…)。ボトルネックを解消し効率よく利用してもらうために、なるべく空気に触れる面積を減らす、かつ坑道が作りやすい壁際で採餌できるように給餌方法を工夫しました。乾燥しやすい容器中央を避けて塗り固められたその見た目からバームクーヘン作戦と呼んでいます。この作戦をとるようになってから安定して繁殖につなげることができるようになりました。広く糞虫の給餌方法として有用なのではと思っています(少なくともシナノエンマ、スズキコエンマには有用)。

↑バームクーヘン作戦で壁際に塗り固められた糞(よじ登っているのはスズキコエンマコガネ)。

 光環境について、上述では昼行性としましたが、飼育下において照明等は不要です。糞があれば明るくても暗くても勝手に食べます。繁殖にあたってはむしろ遮光が重要だと考えています。クローゼットや玄関収納など光の当たらない場所に安置、紙袋などで容器を覆う方が安定して繁殖を確認できました。
 繁殖シーズンについて、5月上旬から活動が確認できるのに対し、繁殖が確認できるのは6月上旬以降と、繁殖行動の開始までにラグがある可能性があります。このラグが後述のスズキコエンマとシナノエンマの繁殖難易度の差異の所以です。5月中はケース内で親個体が活発に活動しているのに、割り出しても一向に糞球が出てこない、なんてことになりがちです。潜れていないなどでなければ、ケースのリセット等しなくても梅雨入り頃には産み始めるので気長に待ちましょう。また、7月下旬から羽化し新成虫が確認できると記載しましたが、野生化では盛夏の間を地中で過ごし9月、10月以降から活動を始める可能性があります。
 その他、エンマコガネ…に限らず糞中の体格と繁殖戦略について、オスの大型個体・小型個体の二極化が知られています。大型オスは糞とメスがいる坑道を守れるような大きなツノを、小型オスはそれを掻い潜りメスにアプローチできる機動力をそれぞれの武器としている、というものです。面白いことに、実際に飼育下でも、大型オスが坑道の入り口に居座っている様子が確認できるほか、小型オスの方が繁殖意欲旺盛なのかペアリングがうまく行きやすいような気がします(大型オスは飼育環境に対して神経質で、同居させているメスへの関心が薄い印象。特にダイコクコガネ…)。せっかく飼育するのなら大型個体を…と思ってしまいますが、ただ繁殖率を上げると言う意味では、あえて大型オスと小型オスを同居させ競争を促すのもアリなのかなと妄想しています。

スズキコエンマコガネ(Caccobius suzukii)の飼育・繁殖について

飼育難易度:★☆☆
繁殖難易度:★☆☆
 -生息環境について
 林内のほか牧草地などのオープンランドに生息しており、生息地では4月下旬から活動が確認できます。おそらく昼行性で、新鮮な糞を求めて飛翔することもあります。動きは鈍重、糞塊の中からあまり動きません。刺激に対しては擬死をとります。
 -飼育環境について
 基本的にシナノエンマと同様です。飼育容器には高さ15cm程の1000mlボトル(菌糸ビンなどに使用されているようなもの)を使用しています。床材には黒土単体または黒土と川砂を混ぜたものを使用し、容器の70%程まで硬く敷き詰めます。1容器につき3〜4ペアを同居させています。給餌について、初回セット時は大さじ3杯ほど、以降は大さじ2杯ほどの糞を週1回の頻度で与えています。
 -繁殖について
 飼育下ではケースセット1週間ほど経ってから本格的な坑道の作成、繁殖行動が確認できるようになります。坑道の末端には地表から持ち運んだ糞が溜められ糞球を形成、メスはそこに卵を産みます。産卵から羽化までは約1ヶ月半から2ヶ月ほどで、5月に産み付けられた卵は幼虫→蛹を経て7月上旬以降に羽化した新成虫が登場し始めます。

↑繁殖が上手くいっている場合は坑道内に糞が運び込まれる。スズキコエンマの場合は5月中からよく見られる。

↑壁際に坑道が作られた場合、糞球内の様子が見えることがある。写真はわかりにくかもしれないが羽化した新成虫の腹面と後脚が見えている(下向きになっている)

↑糞球内で羽化した新成虫。

 -所感
 基本的にシナノエンマと同じ感覚でフィールドでの観察から飼育・繁殖まで可能です。
 あまり動き回らず、体表は糞塗れであることが多いため、よく見ないと見落としてしまうこともしばしばです…が、すぐに逃げ出さないので一度見つけれることができればあとの観察は容易です。スズキコエンマが林内でも見つかることを除けば、シナノエンマとは同じ時期に同じような場所で観察できます。
 床材について、スズキコエンマはより小さいため、硬く詰まりすぎないように注意が必要です。

↑林内などで飛行経路が読めればフライト・インターセプト・トラップ(FIT)でも採集可能。

ダイコクコガネ(Copris ochus)の飼育・繁殖について

飼育難易度:★★☆
繁殖難易度:★★★
 -生息環境について
 牧草地などのオープンランドに生息しており、生息地では6月初頭からおそらく越冬個体の活動が確認できます。夜行性で外灯に飛来することもあるようです。モグラのような盛り土ができるほど坑道を掘り進め、地下30cm程の坑道深奥に糞を運び込みます。坑道内に運び込む糞の量は多く、周辺の糞塊を全て運び込み、地表には土盛りのみが残される場合もあります。坑道に籠もったダイコクコガネは、地表の天候にはあまり左右されず活動するため、雨の日でも見つけることができます。

↑土盛り。鹿糞を全て運び込み土だけが地表に残っている。土盛りの量、乾燥度合いで坑道内の状態がなんとなく分かる(量が少ない場合は浅目の層にオス単体、量が多い場合は深部にメスと糞パンまたは糞球、乾燥している場合は既に不在、穴だけの場合は冬眠明けまたは羽化後地表に出た痕跡…など)。

 -飼育環境について
 繁殖を狙う場合と狙わない場合とで飼育環境は大きく異なります。
 繁殖を狙う場合、地中20cm以上坑道を掘ることを考慮して、飼育容器には高さ30cm以上の4700mlパスタケースを使用しています。床材には黒土と川砂を混ぜたものまたは川砂単体を使用し、20cm以上の高さになるまで硬く敷き詰めます。1容器につき1ペアを同居させています。給餌について、初回セット時に拳2個分ほどの糞を与えています。その後、1日〜2日置きに様子を見て土盛りができているようであればその都度拳1個分ほどの量を追加で与えています。
 繁殖を狙わない場合、エンマコガネらと同様に1000mlボトルなどの容器に床材を敷き詰め、単独で飼育しています。給餌は、大さじ2杯ほどを週に1回与えています。
 ダイコクコガネの特に新成虫については秋以降、土に潜り越冬します。単独飼育時の1000mlボトルに床材を多めに敷き詰め、温度変化が少なくかつ凍結しない場所に安置することで越冬させることが可能です。
 -繁殖について
 ペアリングについて、ケースセット即日〜遅くとも数日中には完了します。土盛りができていない場合、メスが地上に出て来てしまっている場合は失敗している可能性が高いです。土盛りができ、坑道内に糞が運び込まれ、欲を言えば同じ坑道内にオスとメスが同居していることが確認できた場合はひとまずペアリング成功です。
 糞パンの作成について、ペアリングが終了した後も断続的に糞を坑道内に運び込み、握り拳サイズの糞塊・糞パンを作成します。ケースセット以降は糞パンの作成に十分な量の糞を供給し続ける必要があります(親個体が食べる量も考慮する必要があります)。糞パンは作成から1ヶ月ほど地中で熟成されます。この間、基本的にメスは地上に出てこないため、メスが地上に出て来てしまっている場合はほぼ失敗です。また、糞パンにトビムシが湧いてしまった場合にも失敗している可能性が高いです。
 糞球について、稲藁を軽く敷き詰めたタッパー内に安置し蓋が締め切らないようにして管理しています。土を入れないので乾燥が気になりますが、糞球がカビないため管理は容易です。また、糞球は割らない方が当然良いです(幼虫が成長しきるまでは自身の糞で糞球を修復してくれますが、修復が不完全だった場合などは死亡に直結します。割ったところでこちらからは何もできないですし…)。うまく発生が進んでいる場合、糞球にはカビがあまり生えません。7〜8月に生みつけられた卵は冬の間に幼虫→蛹を経て翌5〜6月にかけて羽化します。野生化では羽化後、しばらく地中で過ごし8〜9月に新成虫として地表に現れると思われます。

↑坑道内に運び込まれた糞。エンマコガネのものと見た目は似ているが、その量は段違い。親個体の消費を賄いつつこれだけの糞を運び込ませるには相当量の給餌が必要。


↑熟成中の糞パン(生息地にて撮影)。糞パンは圧縮されており、内部は新鮮な緑色。カビやダニ、トビムシに侵食されていない。

↑糞球から伸びる菌糸。生えてきた菌糸やカビはティッシュで削ぎ落とす。形のいい2個はこの後羽化した。形が歪な1個はこの時すでに糞球の中で中で死亡していた。

 -所感
 フィールドでの観察について、外灯で探す場合をのぞき、基本的に土盛りを掘って探すことになります。同じ土盛りでも主要な活動期間の6月〜9月の間でそれぞれ坑道内の状況が異なる場合があります。6月は冬眠時の穴(空)または越冬個体の単独、7月〜8月はペアおよび糞パンまたは糞球、9月は新成虫または糞球のみが見つかる…といった感じです。坑道が浅い場合には、ただの食事の場合では何十cmも坑道を掘らないようで、浅い坑道ではオス単独や繁殖行動に入る前のメスが内部で糞を食い散らかしていることがあります。また、糞球の元となる糞パンが高密度に圧縮されているのに対し、食事用の糞はボソボソと疎であるのが特徴です。
 雨の日でも見つけることができる、と上述しましたが、坑道を掘る過程でひたすらに泥だらけになるのでお勧めはしません。生息地が高標高地でアクセスが悪い場合も多く、道中で落枝や倒木の危険もあります。
 鹿糞に依存した個体群も存在し、本来のホストでもあるようで鹿糞への嗜好性は高いそうです。したがって観察は必ずしも牛馬の糞である必要はありません(中の人は専ら鹿糞利用の個体を観察しています。服が糞まみれにならなくて良い)。
 ダイコクコガネはたとえ擬死中でもサマになる大変かっこいい糞虫ですが、夜行性であること、地中の滞在時間が長いこと、掘り出した後の擬死が長いこと…など動きのある写真を野外で撮影するのは結構大変だと思っています。
 飼育・繁殖について、偉そうなことを記述していますが、残念ながら中の人は採卵実績がありません(単独飼育、越冬、糞球→羽化の実績はあり。採卵だけひたすらにうまくいかず…)。絶賛意見交換ができる同志を求めておりますので、より良いノウハウをお持ちの方はメールやDMでお気軽にお声がけ頂けますと嬉しいです。
 単独飼育自体の難易度は低めで、飼うだけであれば特に何も考えなくても可能です。しかし、ケースセット直後などあまり落ち着かない場合があります。原因は床材の湿度(乾きすぎ、湿りすぎ)、坑道が作れないなどにあると考えられます。給餌した糞を食べた形跡がなく床材塗れになっている場合は、飼育環境を見直し再度セットするといいです。

↑坑道内に運び込まれた糞。ダイコクコガネ自身の糞が周囲に落ちており、給餌した糞を食べていることがわかる。

 越冬について、おそらく管理温度と床材が重要になります。温度変化が激しい場合や坑道がうまく掘れない場合は越冬中に起きてしまい、死亡率が高かったように思います。
 繁殖の難易度は少なくとも低いとは言えません。極論ケースセットしてから糞球の作成、産卵までの1〜2ヶ月間で、一度でもメス親が地表出ていれば失敗と見て良いでしょう(地表に出てこない場合でも、地中で死亡している場合もあるので安心はできません汗)。ダイコクコガネの繁殖に挑戦するにあたり注意しなければならないのはランニングコストです。ペアリングに失敗している場合ケースセットから最短数日でリトライ可能になりますが、試行錯誤を繰り返すにはとにかくお金も手間もかかります。まず、糞球を作るのに十分な大きさの糞パンを作ってもらうため十分な量の給餌ができる必要があります。一度のケースセットまたは給餌にあたり、貴重な糞をお茶碗1〜2杯分投入していくことになるので、これを繰り返す場合の糞の消費量はエンマコガネなどの比ではありません。気軽に糞を手に入れられる環境でなければ、限りあるリソースをどれだけダイコクコガネに割けるかが課題として常に付き纏います(他に飼育中の糞虫がいる場合は特に)。続いて床材・残土問題です。糞がカビやトビムシに荒らされてしまう懸念があるため、ケースセットのたびに床材を新調する必要があります。レンチンすれば再利用可能かもしれませんが、ただでさえ5L以上ある残土、それも糞混じり…レンチンは少し憚られます。都市部や賃貸住宅住まいの場合は、大量に発生する残土の処分方法も考えなければなりません。
 飼育、繁殖は苦行と感じることも多いですが、あのダイコクコガネと生活を共にできる、という一点が全ての苦労を帳消しにしてくれます。

↑自宅にいながら、フィールドさながらの土盛りが拝める!

ツノコガネ(Liatongus mimutus)の羽化について
飼育難易度:ーーー
繁殖難易度:ーーー
 -生息環境について
 林内のほか牧草地などのオープンランドに生息しており、生息地では7月頃から新成虫の活動が確認できます。昼行性で、天気のいい日は新鮮な糞を求めて盛んに飛翔します。
 -羽化について
 春先に古い糞塊下から直径1cm程度(小さめの鹿糞台)の糞球を確認することが可能です。5月上旬にはおそらく3齢幼虫になっており、5月下旬〜6月初頭には糞球内で羽化しています。春先に掘り出した糞球であれば、カビないようにティッシュなどで覆うだけで特に何もすることなく羽化まで漕ぎ着けます。

↑5月上旬、古い糞塊周辺を掘ると糞球が見つかることがある。糞球はほとんど土の繭のようになっており、写真のように糞球を割ってしまわないよう注意が必要。

 -所感
 羽化に関して、糞球をこちらで割らない場合はファーブル昆虫記のスカラベのように糞球を湿らせてあげると良いかもしれません。
 ツノコガネといえど、いわゆる広義のエンマコガネなので基本的にシナノエンマなどと同様の環境で飼育・繁殖が可能と考えられます。
 1化生(秋に産卵→翌春に蛹化、翌夏に羽化のライフサイクル)のようで、サイズの割りにライフサイクルが長く飼育・繁殖に関してはあまり前向きにチャレンジできない種類です(超かっこいいとは思うけど、ダイコクコガネと同じサイクルであることを考えるとちょっと割に合わない感…汗)。

↑5月下旬には蛹化している。ここまで来れば割ってしまっても問題ない。

↑羽化したての新成虫。全身真っ赤。

ハバビロガムシ(Sphaeridium)の飼育について

飼育難易度:★★☆
繁殖難易度:ーーー
 -生息環境について
 いわゆる陸生ガムシの一種です。国内では沖縄など離島の牧草地や畑地付近の牛舎で見つけることができ、2月初頭でも成虫が活動しています。エンマコガネなど同サイズの糞虫と類似した食痕や糞内に坑道を作ります。移動は素早く、糞の隙間に潜り込んでいきます。

↑フィールドでの活動はエンマコガネと類似。水分の多い牛糞に孔を開けて出入りしている。

 -飼育環境について
 はじめに、1週間ほどで全滅させてしまったため大層なことは記述できません。しかし、ハバビロガムシの飼育記事なんてそうそう存在しないのではと思い、半分妄想に近い内容になっていますが掲載しています(…需要も存在しない?)。
 まず根本的な分類群が異なるためか、飼育開始までの段取りから一般的な糞虫とやや異なります。というのも、乾燥に大変弱いため、採集後から飼育ケースに移すまでの間、水を多く含ませたティッシュなどを一緒に入れて持ち運ぶ必要があります。同サイズの糞虫(いわゆるコガネムシ科のエンマコガネやマグソコガネ)らと同じ感覚で管理すると、道中の車内や滞在先の宿で乾燥死します。 
 成虫の飼育環境についても乾燥をいかに防ぐかが鍵になります。床材には黒土やピートなどを少なめに用意し、投入する糞の割合を多めにするのがいいかなと思います(フィールドでは湿った糞の中に潜っている感じだったので)。少なくとも床材に砂は無しですね汗。反対に乾燥に対応できれば、やっていること自体はエンマコガネとそう大差ないので、成虫の飼育自体は難しくないのではと思います。
 問題は繁殖です。成虫は糞食ですが、幼虫は肉食で糞に湧くウジなど捕食しているらしいです。トリニドショウジョウバエのウジやコオロギのピンヘッド(初令)で代用可能かもですが…色んな意味でハードルが高いです。飼育はできるけど繁殖はできない、ハバビロガムシは多分きっとそういう類の虫だと思っています。

↑ケースセット時の写真。少なすぎる糞、乾燥しやすい砂の床材など今見返せば改善点の多い飼育環境といえる。